幸せの軌跡

□第14話 迷走シンドローム
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翌朝、おっさんと鉢合わせることもなく、学校へ行った。
別にそんなの普通のことなのに、今日はそれが意図的な気がしてひっかかる。
無性に気になってしまう。
おかしいよな、オレ。

「――リ、ユーリ?」

「えっ」
「どうした?ボーッとして」
「あ、ああ…悪い、なんでもない」

名前を呼ばれ顔を上げると、リヒターが困ったようにオレを見ていた。
そこでやっと今が講義の最中だったことを思い出す。

「今、どこだ?」
「ここだが……本当に大丈夫か?」
「ああ、大丈夫。サンキュ」

示されたテキストに目を落とすも、文字が頭に入ることはなく。
当然、講義の内容なんて全くわからない。
そんな自分が信じられなかった。
なんとか集中しようと耳を傾けても、気がつけば意識は霧散し、結局同じことばかり考えてしまっていた。

「らしくないな」
「そうか?」
「ああ、そんなに上の空のおまえは見たことがない」
「そう、かもな…」

突然他人事のように、でもどこか心配そうにぽつりともらしたリヒターに少し驚く。
そんなにオレはおかしかったのだろうか。
いや、こいつがそう言うなら相当だったんだろう。
心配をかけないように笑いかけると、苦笑が一つ返ってきた。

それにしても…。

オレは一体どうしたって言うんだ。
ちょっとおっさんの様子がいつもと違うくらいで、何をそんなに動揺する必要があるんだよ。
わけがわからなくて、イライラする。
大体、なんかあるなら言やいいんだ。
それなのに、うまいことかわしやがって。

あー、腹立つ!

何より、そんな風に乱されている自分の心がいやだった。
まるで、自分が自分じゃないみたいだ。

あれから数日。
タイミング悪くすれ違いばかりで、まともに話せていない。
というより、避けられてる気がする。
そのことは、余計にオレを苛立たせていた。

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