幸せの軌跡

□第15話 溢れ出す想い
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「うん…」
「じゃあ、なんで…」

ますますわからないといったように首を傾げるユーリ。
本当に、はじめのころの警戒心が嘘みたいだった。

どういう言い方をするのが最適なんだろう。
冗談で流したほうがいいのか、真面目にいったほうがいいのか。
皆目見当がつかない。
そのくらいユーリは手強い相手だった。
短い時間に頭をフル回転させて散々悩んだ挙げ句、

「え、えへへ、おっさんユーリ君にちゅーしちゃった」
「…は?」

へらっと笑って言うと、一瞬いつもの蔑むような目つきになり、びくりと肩が跳ねそうになる。
選択を誤ったっぽい。
こうなったらもうヤケクソだ。
今度はもう少し言い方を変えてみる。
低く、囁くように、真剣みを込めて。

「だから、キス…しちゃった」
「な、なんで…そんなこと」

すると、意外なことに今度は明らかに動揺し、口元に手を当てて目を泳がせた。
事実を受け入れられない、そんな様子で。

言ってしまったら、今まで築いてきたものが崩れる気がしてた。
だけど、もう後戻りはできない。
理由もなくそうしたわけじゃない。
ここまできてただの変態扱いをされるよりは、いっそ、真剣な想いを伝えてしまったほうが悔いがない気がして。
下手に謝るくらいなら当たって砕けたほうがいい。
今度は、茶化すような声ではなく、真剣な声音で。

「好きだから」

ユーリの目が大きく見開かれる。

「ユーリが、好きだから」

追い討ちをかけるように、もう一度はっきりと告げる。
拒絶される覚悟はできていた。

「そ、れは…どういう」

だけど、まだその意味をうまく受けとれないらしいユーリは、そんなことを口にした。
困惑を宿した瞳が揺れ、見つめてくる。

「友達としてじゃなくて、恋人として。触れたい、キスしたい…そういう好き」

わかる?と顔を覗き込むと、ユーリは困ったように目を反らす。
ユーリの表情から伺えたのは、拒絶じゃあなかった。
驚嘆、狼狽、困惑、混乱…そんなユーリの反応に、一筋の光を見い出す。
嫌なのではなく、わからない。
そう、自分でもわからないと言うのなら、

「例えば、こんな風に…」

わかるように、導いてあげればいい。
これは賭けだった。
これでダメなら、もう諦めるしかない。
動けなくなっているユーリにそっと近付き、頬に手を添える。
そして、あのときと同じように、ほんの一瞬だけ。
掠めるように、唇を重ねた。

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