幸せの軌跡

□第16話 変わる景色
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当然目覚めはよくはなかった。
いつ寝たのかも曖昧で、頭がすっきりしない。
それなら今は色々考え込むより、体を動かしたり、とにかく何かしているほうがいい。
今日は早く家を出て、歩く距離をのばしてみるか。
そう思って、すばやく支度を済ませて家を出

「あ…」
「おはよ、ユーリ」

ると、目の前にはおっさんがいて。
オレに気がつくと、ニコッと笑って手を上げた。
その笑顔に、なぜだか一瞬ドキリとさせられる。

「ユーリ?」

というか、なんでこのタイミングで…。
昨日までは会おうと思っても、全然タイミングが合わなかったのに。
今日に限ってばっちりだなんて、皮肉にも程がある。

「な、なんだよ」

しかも、なんだよこれ。
おっさんの顔が、まともに見られない。
何を言えばいいのか、わからない。

「大丈夫?」

心配そうな表情で顔を覗き込まれる。
何が大丈夫なのか、全然わからなかった。

「別に、なんでもねーよ」

ぶっきらぼうにそう答えると、おっさんは困ったように頭を掻いて。

「…ごめんね」
「っ…なんで謝るんだよ!?」

カッと頭に血が上るのがわかった。
何がそんなに気に障ったのか、自分でもよくわからないけれど。

「や、なんか顔色よくないから昨日のことで悩ませちゃったのかと思って」
「……自惚れんな」

図星なだけになんとも言えず、目を反らす。
昨日から、こんな態度を取ってばっかりな気がする。
振り回されてる、のか?

「返事…聞かないのかよ?」

それがなんだか癪に障って、話を遮るようにそう口にした。
それに、いつまでもこんな悩みを抱えてたら、オレの身が持たない。
できることなら早く解決してしまいたい、というのも本音だった。

「うーん…だって、ユーリわかんないっしょ?自分でも」

だが、レイヴンは焦る必要はない、と諭すように言う。
それがオレにはわからない。

「そうだけどっ、わかんないからいつまでも保留、なんて嫌じゃないのかよ」
「そりゃあね。でも、ユーリの気持ちはユーリにしかわからないもの。それをおっさんが無理矢理どうにかなんてできないし」

もちろん、好きって言ってもらえた方が嬉しいけどね、とおっさんは笑った。
どうしてそんな風に笑えるのか、オレには理解できない。
大体、昨日あんなことをしておいてどの口がそんなことを言うのか。

「そんな適当でいいのかよ」
「恋なんてそんなもんでしょ」

肩をすくめてまるで他人事のようにそう言うレイヴンは、妙に大人に見えた。
実際、オレより14も年上なわけだから、"大人"ではあるんだけど。
普段の様子はそういう"大人らしさ"とは程遠いからつい忘れそうになってしまう。

とにかく、このままモヤモヤを抱えるのは嫌で。
それに、すぐに答えを求められないことが、なぜかオレの中ではひっかかっていて。
眉間に皺を寄せて俯く。

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