幸せの軌跡

□第18話 アイアイ傘
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「お〜い」
「………」

けれど、一度振り向いてしまった手前、無視することもできない。
できるなら見なかったことにしたかったが、仕方なく足を止めて歩み寄る。

「おっさん、何やってんだ?」

聞かなくても大体わかったが、聞かずにはいられない。

「雨宿り?」

おっさん特有のへらっとした口調に笑顔。
イラッ、としたのは言うまでもない。
くるりと踵を返して歩き出す。

「あぁっ、ちょっと待って!行かないで!」

まぁ、当然それで済むわけもなく、おっさんはオレの腕にすがり付いてきた。
わかっていたことだから、そのまま大人しく止まってやる。
そして、話を聞くように体を向けると。

「お願い!!」

おっさんは、ぱんっと両手を合わせて頭を下げた。
こんな光景を今までにも何回か見たような気がする。
どうしてオレもおっさんも、学習しないんだろうな。

「ホント、マジで、お願いします!傘に入れてください!」

人の行き来する街中で必死に頭を下げる姿は、自然と人の目もひく。
こんなにざかざか降ってるのに見捨てていったら、オレはどう見ても人でなしだ。

「…入れよ」
「ありがとう!」

抵抗を諦め、傘を傾けてスペースを作ってやる。
やたらと嬉しそうにそこへ入ってくるおっさんに軽く辟易しながら、歩き出す。
できれば、早くその場を離れてしまいたかった。

「ったく、梅雨に傘持ち歩かない奴がどこにいるんだよ」
「え、ここにい」
「聞いたオレがバカだった」

おっさんには常識という言葉が存在しない。
そのくらいの気持ちで相手をしないと付き合い切れない。
そして、ストレスを溜めないためには素早い話題転換が必要だ。

「大体、なんでおっさんこんなとこにいるんだよ」

おっさんの通勤ルートに駅周辺は入ってない。
さすがにもうそのくらいはオレでも把握していた。

「え、あー、ちょーっと寄り道をね?」

おっさんは少し言いにくそうに言い訳をする。
何故かたまにそういうことがあった。
まぁ、深く追及する気はないからいいんだけどな。

「それで降られてちゃ世話ねーな」
「もーしわけない」

飽きれ顔でそう言ってやると、おっさんは苦笑しながら答えた。
本当に申し訳ないと思うなら、そのへんのコンビニにでも駆け込んで傘を買えよ、と思ったがさすがに口には出さなかった。
一応、オレにも良心とか同情心とかっていうのがあるらしい。

「でも、ちょっとラッキーかな」
「は?」

急に嬉しそうな顔をするおっさん。
意味がわからなくて首を傾げる。

「ユーリ君と相合い傘〜♪」
「っ……はいはい、勝手に言ってろ」

心底嬉しそうな顔をされて、一瞬言葉に詰まる。
こういうときどうしたらいいのかわからない。
だからいつもつい冷たい態度を取っちまうわけだけど。

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