幸せの軌跡

□第18話 アイアイ傘
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でも、もう少し、素直になれたらいいと思うことはある。
そのほうがかわいげもあるんだろうし。
って、なんで男のオレにかわいげが要るんだよ。
おっさんにしょっちゅう「可愛い」だのなんだのって言われるせいで感覚が狂っちまったのか。

「ユーリ?」

そんなことを考えていたら、おっさんが心配そうに顔を覗き込んできた。
咄嗟に逃げるように顔を背ける。

「なんでもねーよ」

そうは言ったものの、やっぱり心の中には何かがひっかかっていて。

"お試し期間"なんて言い出したおっさんは、確かに約束は守っている。
『口は出すかも』なんて茶化してたけど、実際はしようとしてきたことなんてない。
まるであの日のことが嘘だったみたいに普通に過ごしてる気がした。

もちろん、おっさん曰く"恋人(仮)"という名目上、一緒にいることは増えた。
だけど、それだけだ。
別に、それが気に入らないわけじゃない。
そういう条件にしたのはオレだ。
だけど、何か、何かがひっかかるんだ。

「雨やまないわね〜」
「さっき降りだしたばっかだろ」
「そうでした」

また思考の世界に飛びそうになったところを、ふいにそんなことを言い出したおっさんに引き戻され、また呆れそうになって。

「ってゆか、ユーリ濡れてない?傘持とうか?」

でも、こうやって意外と気がつくところを見せられたりすると、またどうしていいかわからなくなる。

「別に、大丈夫。それにこういうとき傘持つのは背の高い方だろ?」
「うあー、気にしてることをー!おっさん傷付いたー」

それがなんだか少し悔しくて、意地悪く笑ってやるとおっさんは軽く飛び跳ねて文句を言ってきた。

「ちょ、暴れんな!追い出すぞ」
「そ、それは困るー!」
「ならじっとしてろって!」

暴れようとするおっさんを一蹴して笑う。
こんな風にガキみたいな行動を取るおっさんを見るのは、意外と楽しい。
オレは案外おっさんとのこの関係を楽しんでる、のかもな。
横で未だに何か言っているおっさんを見ながら、そんなことを思った。


いつもと同じはずなのに、妙に長く感じる帰り道。
それは雨のせい?
それとも、レイヴンといるから?

ちゃんとした答えはまだ出ない。
だけど、着実に心を動かされているのだと、頭の隅で理解していた。



肩を寄せ合う


その空間で


感じたものは



To be Continued...



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