幸せの軌跡

□第20話 オトナとコドモ
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もう少しだけ


大人になれたら


いいのになんて…



  幸せの軌跡
   第20話
―オトナとコドモ―



ぼんやりとした意識の中、オレを呼ぶ声がした。

その声は、なぜだかすごく必死で。
次第に優しくなって。
あたたかくオレの意識を包んでいって。
また、遠くなっていく…。

引き止めたくても、体は動かない。
そのとき感じたものは途方もない孤独。
孤独に包まれて、オレの意識は再び堕ちていく。

そして、次に目が覚めたとき、目の前にいたのはレイヴンだった。

「大丈夫?」

今度ははっきりと聞こえてくる、声。
耳に心地よく届く声。
安心する…。

「…へい、き」

それに比べて自分の声の弱弱しさはどういうことだろう。
だけど、応えずにはいられなかった。
そうしないと、また声が遠ざかってしまうような気がして。

おっさんがそこにいてくれること、それは何よりオレを安心させた。

「おやすみ、ユーリ」

耳をくすぐる優しい声と、撫でられる感触が、気持ちいい。
またゆっくりと、まどろみの中におちる。
けれど、もうそこに孤独の闇はない。

すぐそこに、ぬくもりがあるから。


翌朝、目を覚ましたときにはもうおっさんはいなかったけれど。
ついさっきまでそこにいただろう痕跡があって。
なんとも言えない気持ちがこみ上げてきた。

そして、大事なことに気が付く。

オレは、おっさんに何かひとつでも返せていただろうか。
世話になってばかりで、迷惑をかけてばかりで。
答えさえも出せないまま、いつまでも甘えてばかり。

そんなの、嫌だと思うのに。
肝心の一歩が出ない。
踏み出す勇気が、心に触れる勇気が足りない。

そう、ほんの少しだけ、勇気を出せばいいだけのこと。
いつまでもガキみたいに意地張って、逃げてちゃダメなんだ。
だから、今度こそ、もう少しだけ、大人になって。

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