幸せの軌跡

□最終話 未来への協奏曲
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それは、あるよく晴れた日のことだった。
おっさんが突然、やたらと神妙な顔つきで、大事な話がある、と言ってきた。

だから、いざ向かい合って話を聞こうとしたのに、話は脱線するばかり。

「ホント、フレンが親友でよかったよ」

あのあと親友くんの方はどうフォローしたの?
そう聞かれたから、フレンとこに荷物取りにいったときの話をしてやったってのに。
じとーっと、何やら責めるような目で、おっさんはオレを見ていた。

「…んだよ、その目は」
「いや…うん、ユーリくんって意外と天然よね」

…意味わかんねぇし。

しみじみと、どこか諦めたようにそう言われ、軽く眉間に皺が寄る。
このまま続けると無駄にイライラが溜まりそうだ。
その前に早く本題に入ってもらうのが得策だな。

「で、結局なんなんだよ、話って」
「あ、あぁ…うん、えっとね」

だが、いざそっちに話を持っていこうとすると、口ごもる。
なんだこれ、デジャヴか?
いや、おっさんの歯切れが悪いのはいつものことのような気もするけど。

「…何、別れ話?」
「そ、そんなんじゃないよ!だからぁ〜」

焦れったさからついちょっとした悪戯心が芽生えて、冷たく言ってみたらこれだ。
さすが期待を裏切らない。
あんまり必死に慌てるもんだから、可笑しくて笑いそうになる。
別にオレだってそんなことを本気で思ってるわけじゃない。
ただ、そう思われたくなきゃ早くしろ、ってだけだ。

そんなオレの心を知ってか知らずか。
おっさんは何度かあたふたと弁解をしたあと、急に姿勢を正して。

少しの沈黙の後、

「お、俺とっ、一緒に暮らしてください!」

ガバッと頭を下げて叫んだ。

「…へ?」

大事な話だなんて改まって言うから何かと思えば…。
想定外の内容に、呆気にとられてしまう。

「…ど、どう、かな?」

しかも目の前には、そんなオレの様子から何か勘違いしたのか、上目遣い気味にこっちを窺ってくるおっさんがいた。
そんなに不安そうな顔すんなよな、全く。

あんまり言い出しづらそうにしてたから、別れ話じゃないにしても、何か困ったことでもあったのかと思っていた。
なのにこれじゃ、こっちまでかしこまってたのがバカみたいじゃねえか。
けどま、そんな風に振り回されるのも…悪い気はしないんだよな。

「それ、もう今さらだと思うんだけど」

元々部屋は隣同士だし、今じゃ毎日どっちかの部屋に入り浸ってる。
つまり、ほとんど一緒に住んでるのとかわらない。

「そうだけど、ちゃんとね、言いたかったの!改めてそうしたいの!」

軽く身を乗り出してくるおっさんの剣幕に、少し驚く。
その表情は、真剣そのものだった。
これを茶化すのは、さすがに気が引けた。

オレはこんな性格だから、素直になれないときもある。
いや、そのほうが多かったな。
それでも、きっと少しは成長できた。
それはおっさんのおかげだとも思う。

そんなレイヴンとずっと一緒に。
ずっと二人一緒にいたいと願う自分がいる。
その気持ちに一切の偽りはない。

だから、今は少しだけ素直になろう。

「これからもよろしくな、レイヴン」

瞬間、泣きそうな笑顔が眼前に広がって。
今胸に満ちているものを人は"幸せ"と呼ぶのだと、頭ではなく心で理解した。

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