女子校コース(落乱)
□第三話 雨、子猫
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佇む君に、
一瞬で目を奪われた。
―――雨は嫌いだ。
その男、忍女子学園の保健医、山田利吉は溜息を吐いた。
外を見るとザァザァと激しく音を立てる雨。
「よくもまぁこんなに降るもんだな」
少し恨めしそうに外を眺める。
その言葉に雨は答えることなく振り続ける。
―――雨は嫌いだ。
利吉はその昔、雨が好きだった。
幼き頃、雨が降れば母と同じ傘の下に入ってよくはしゃいだものだった。
大きく出来た水溜まり。
藍色の傘。
母の笑顔。
そのどれもが利吉は好きで、雨になると不思議と心が浮いたような感覚になった。
「利吉先生、頭痛がするんで休ませて下さーい」
生徒の声に利吉の思考は中断される。
頭痛を訴える生徒は本当に体調が優れないらしく顔色が悪い。
念のために、と思って熱を計るようにと体温計を渡した。
ピピッと音をたてた体温計の数字を見ると、37.2℃
微熱程度だが、あまりに生徒の顔色が優れないのでベッドの使用を許可した。
生徒がゆっくりと寝息を立て始めると、利吉はコーヒーを淹れ直し、机に向かう。
ぼんやり外の景色を見ていると、窓の端で何かが動いた。
―――?
それは藍色に揺れる一本の傘。
くるくると回ってはその薄暗い空の下で存在を誇張する。
その傘を見た途端に利吉は慌てて外に出た。
*