芸能コース(落乱)
□月9忍たま!act.02
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Act 02 「摂津 桐」
「桐ちゃん、今回はよろしく」
「あ、監督!こちらこそご面倒かけると思いますが、よろしくご指導願いますね」
台本を読んでいた摂津 桐は、監督の言葉ににっこりと笑って礼儀正しい挨拶を返した。
「あはは、ビシバシ扱くから覚悟しとけよぉ!」
それに気を良くした監督は、桐の頭をわしわしと撫でると他の共演者の元へとあいさつに向かう。
その姿を見送って、桐は辺りを見渡した。
現場には慌ただしく動くスタッフたちで活気づいていて。
そんなスタッフたちを見て桐は感謝の気持ちでいっぱいになった。
「桐ちゃん久しぶりぃ☆元気だった?!」
「見ての通りですよ〜ピンピン元気です!」
「桐ちゃんこれ食べな!実家から送ってきたんだ」
「わぁ!おいしそうですね。小山さんありがとうございます。」
スタッフが桐に話しかける度に、彼は丁寧に返事を返す。
桐の現場入り時間はいつもどの役者よりも早く、この「忍たま」のドラマの顔合わせであろうとそれは変わりなかった。
共演者にはもちろん、スタッフにも心遣いを忘れない彼は、小さいながらもしっかりとしている。
幼いころから芸能界というところで育ってきたというのに初心を忘れず、全く擦れていない。
そんな桐をみんな好いていた。
桐の身についた処世術のルーツは実は生い立ちにあった。
桐の母親は昔有名だった大女優で、不幸にも桐が5歳の時に他界してしまっている。
父は桐が生まれたときにはもう蒸発していなかったので、桐は天涯孤独になってしまった。
そんな桐を救ったのが“俳優”という仕事であった。
仕事をしている時は、自分が生きていると一番実感できるのだ。
だからこそ、演技をする現場はいつも神聖なものにしておきたいし、みんなが過ごしやすい環境も大事にするべきだと彼は常に心がけている。
だからスタッフに気を使うのも彼にとっては大事な仕事なのだ。
特に今回の「忍たま」のロケだけは、何にも邪魔されず演技だけに集中しておきたい。
今回演じることになった「きり丸」は自分と共通するものが見受けられる。
この役をどうしても演ってみたい。
「きり丸」を演じ切ることで、自分へ挑戦するのだ。
出演依頼を受けた時、桐は即OKを出した。
自分自身の壁を乗り越えるために。
「摂津くん、お茶飲むかい?」
「ありがとうございます!あ、そうだ。清掃の田中さん、今日楽屋がとても綺麗でびっくりしました〜。お掃除ありがとうございました!」
「そういってもらえると頑張った甲斐があるよ」
あはは、と笑って頂いたお茶をずずっとすする。
スタッフの温かい気遣いがたくさん込められているようで、自然とやる気が湧いてきた。
よし。
今日も頑張ろうっと。
彼は気を引き締めると、お茶を飲み干した。
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