芸能コース(落乱)

□月9忍たま!act.06
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Act 06「山田親子」




「おはようございます、監督」

「やぁ、利吉君。…まさか君が出演してくれるとは思っていなかったよ」

こちらとしては、光栄だがね。

監督がそう言うと俺の肩をポンポンと叩いて笑った。

「期待してるよ」

その言葉に苦笑して。

「頑張ります」

指で頬を掻きながら監督にそう言った。

今日は「忍たま」の顔合わせだ。

実は俺、山田 利吉に「忍たま」の出演依頼はなかった。

事務所の社長に頼みこみ予定していた海外ロケをずらしてまでこの仕事をもぎ取ったのには理由がある。

「おや、利吉じゃないか」

「…父さん」

―――紹介しよう。

自分の父、山田 伝蔵。

こう見えても時代劇の大御所として通っている。

そしてどーでもいいが僕の母はサスペンスドラマで名を馳せている有名な女優だ。

そんな二人の息子と云うことで今まで謂れのない嫉妬や差別を受けてきたが、今となっては懐かしい思い出だ。

今の自分にそんな事を言える者はおそらくいないだろう。
理由は簡単。

俺が「押しも押されぬ若手NO.1の俳優」として、世間から認められているからだ。

プレッシャーは未だ残るが、まぁ頑張った甲斐はあるだろう。

ところで、今回父も「忍たま」に出演する訳なんだが、自分としては複雑なわけで。

何故かというと、父といることで周りが異様に気を使ったり、好奇の目で見てくるからだ。

自分はあまり父母との事を周りにどうこう言われたくない。

だから今まで、父とも母とも共演などした事はなかった。

親の力で特別視されるのが嫌だからだ。

そんな僕が今回「忍たま」に出演したがった。

父にしては不思議であっただろう。

「珍しいな、お前が私と共演する気になったなんて」

案の定、父は疑問を口にした。

「いや…」

さてと…どう説明したもんかな…。

自分としては父には正直に話してもいいかと思うのだが。

何分理由が特殊だから言おうにも迷ってしまう…。

「まぁ、何となくわからんでもないが…」

自分が言い淀んでると、ふぅ…と溜息をついた父がそう言い放った。

「え…?」
「あの子だろう?」

父が言いながらある方向を指差す。

そこに居たのは、今共演者と談笑している小さな男の子。

「お見通しですか…」

自分が困った顔で父を見ると、父も困った顔で、

「だてにお前の親はやっていない」

と肩をすくめて見せた。

「お前の我儘に社長がビックリしていたぞ」

「…まぁ、こんな“お願い”なんてめったに言わないですし」

「ほう?今回の我儘が一番きつかったと言っていたが?」

「……………」

父の呆れた笑みに言葉を失う。

知らなかった。
自分は今まで自覚なしに我儘を言ってきていたのか…

「あまり困らせてやるなよ?」

「そんなつもりはありませんが…。まぁ努力します」

それだけを父に言って自分はその場を立ち去る。

これ以上父に突っ込まれたくない、と言うのもあったが、それよりなにより、愛しいあの子の元へ早く行きたかったのだ。

自分でも少し執着しすぎかもしれないと思うが今更構わない。



君の傍に居れるのであれば、

「桐ちゃん、こんにちは」




俺はなんだってするよ。


*

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