シアワセノカタチ

□キミノナヲヨブ
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縁側deアルシェリ
注・再です。


「…ったく、兄さんなにをやってんだ」
「文句言わないの。アルトにお茶出そうとしたからじゃない」
「…絶対!!!わざとだ」
拗ねた様に頬を膨らますアルトにシェリルは苦笑する。
シェリルの顔を見て早々に立ち去る予定だったアルトの思惑は、兄が出してくれた1杯のお茶で粉砕された。

「できたわアルト」
シェリルは手早くアルトの帯を結び背中をポンと叩く。
「あぁ」
こんな格好では帰れない。己の姿を見下ろして、重いため息一つ。上質な濃紺色の着物に品の良い茶帯。アルトの色白の美しい顔とあいまって、一枚の絵の様だ。シェリルは内心感嘆の声を上げたが、表情には出さない。

「制服が乾くまでの辛抱よ」
「兄さんがよろけるなんて有り得ない」
「人間だもの。絶対はないわ」
兄を擁護する様なシェリルらしくない発言に拗ねて、アルトは黙りこみ縁側で何時もの紙飛行機を折り始めた。シェリルも間隔を開けて隣に腰を下ろす。
柔らかな風が二人の頬を撫で、暖かな日差しが二人を包む。
久しぶりに流れる優しい時間。

紙飛行機を折るカサカサとした音が聞こえなくなる。不思議に思ったシェリルの目にうとうとと微睡むアルトが映った。
『アルト…』
可愛いい?愛しい?どんな言葉も今の感情には当てはめられない。言葉にすると何て陳腐なんだろう。

カクリ

左に傾くアルトを慌てて支える。細くてもアルトは男だ。ふるふるする己の柔腕を叱咤して、両腕で優しく包み込む。

「……あっ………わり」

さすがにばつが悪そうなアルトを今度は乱暴に引き倒して、頭を膝に伸せる。
いわゆる膝枕。
「シェ…シェリル」
照れて起き上がろうとするアルトの目を華奢な指でふさぐ。
「膝枕なんて特別なんだから!心して眠りなさい!!」
「お前な…」
反論しかけてアルトは結局黙り込む。喧嘩になってこの柔らかな枕を失うのは痛いと思ったからだ。
何より睡魔には勝てない。
アルトは優しい眠りに吸い込まれて、意識を手放した。
起きる頃には制服も乾いているだろう。
どんなにアルトが拒否しようとアルトを育て慈しんだ場所。
シェリルの優しい眼差しに見守られて、アルトは久しぶりにゆっくりと眠った。

優しい思いがアルトを包む。

おやすみなさいアルト。
それは、シェリルの言葉か?それとも……




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