記念文

□innocent moon
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息苦しい静寂の中。ルカが幼い顔を引き締めて、理路整然と

お前は死ぬんだ

そう説明しているのをシェリルは冷えた心で聞いていた。
完結に死ぬと宣言した誰よりも信じていたグレイスと
逃げ道のない事実を突き付けるルカ。どちらが残酷だろう?それでもシェリルに動揺はない。
そんな事は、己の目で耳で確かめた。光の無い事実でも逃げるのは嫌だったから。

ただ反応したのはランカの名前。

「ランカちゃんも?」
不安はルカによって否定された。
心底ホッとする自分が哀れに思えた。焦がれた力を要らないと否定して、フロンティアを放れたランカ。でも不思議に非難する気持ちにはなれなかった。1度はランカの頬を叩き
プロなら歌いなさい

そう諭したシェリル。生きる全てとして、手段として歌い続けて来た己と、心のままに歌うランカとは相容れない歌に対しての拘りがあるのだろう。

根本は同じだとしても

…命と引き替えに手に入れた力。
あの子が嫌だと言うのなら

そっと目を閉じる。

脳裏に浮かぶのは屈託なく笑う少年。
シェリルをシェリルとして接してくれた。
唯一の存在。
『アルト』

守りたい。
アルトもランカも。

残された時が少ないのなら。

守る為に歌い
果てるなら


あのごみ溜めのどん底から這い上がったシェリルに相応しいラストなのかもしれない。


でも

怖い
怖いよ


アルト。

寒い
寒いよ

アルト。


温もりが欲しくてもシェリルを見つめるのは冷たく煌めく2対の瞳。震えそうになる思いに逃げを打つ様に立ち上がる。
足がテーブルに触れて、冷めた紅茶が揺れた。

「シェリルさん?」
「………もう少し考えさせて下さい」
それだけ言うと視線から逃れる様に背中を向けた。
「シェリルさん」
ギクリと立ち止まる。
「…なんでしょう?」
それまで無言で見守っていたレオンが、綺麗に鍛えた声でシェリルを呼び止めた。
綺麗でも温もりのない声。アルトとは大違いだ。
「体調は万全ではないのでしょう?送らせますよ」
「………」
1人でも帰れる。
でもこれ以上息の詰まる部屋に居るのが嫌で。
シェリルは渋々頷いた。


早く早乙女の家に帰りたい。




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