01/01の日記
15:48
福寿草
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「大丈夫よ。心配ないわ」
シェリルは自分に言い聞かせる様にアルトを見上げて柔らかく微笑んだ。
「やだ!何情けない顔してるの!」
砕けた何時もの口調。しかし、アルトは薄い検査着の下で震える肩を見逃さなかった。
カナリアが前方の壁にもたれて、シェリルを待って居なければ、強がりごと抱きしめただろう。
多大な犠牲と痛みを払った大戦…それでも人は生きねばらない。強く。
戦後のドタバタで、伸ばし伸ばしになっていたシェリルのV型感染症の検査もアルトの強い要望を受けて戦後1ヶ月目に実現した。無傷の病院がなかったと言うのもあるが、当事者のシェリルがボランティアだ慰安イベントだと、なかなかつかまらなかったのが原因でもある。
『ランカちゃんが治してくれたんだもの!大丈夫よ』
それでも、根底にある死への恐怖は拭えない。明るく振る舞うシェリルが痛々しくて見ていられなかった。
だったらいっそ白黒付けて、スッキリした方がシェリルらしい。戦後間もなく混乱が続く医療機関で1人特別待遇を受けるであろう事を嫌い、拒み続けるシェリルの腹をたった一言で決めさせた。
お前…怖いのか?
近くで経緯を眺めていたカナリアは、坊やだと思っていたアルトの手際の良さを目を細めながら関心していた。
『怖くなんかないわよー』
自尊心を刺激されたシェリルは、今受けるわ!すぐ受けるわ!…と、リノウムの床をガシガシ蹴り上げたのが、数時間前…
焚き付けたは良いが、震えるシェリルを見るとどうにもいたたまれない。アルトはあの命さえ失いかけたどん底を見ているのだから。
「…シェリル……これ」
胸元にある守りに手をやりかけて思いとどまる。検査を受けに行くのだからお守りでは取り上げられそうだ。
しばし思案して、髪から赤い紐を取る。結わえていた髪がほどけて、サラリと舞った。
シェリルの華奢な手首を取ると、2、3度巻き付けて、リボン結びに結んだ。
「アルト?」
「これは幸せを招くお守りだ。きっと良い結果が出るさ…」
「当たり前じゃない!始めっから心配なんてしてないわ!…でも、そうね……アルトの不安が消えるなら持っててあげても良いわ」
シェリルはすがり付きたいのを必死に堪えて、シェリルらしく言い放った。
「こいつ!」
「キャー」
カナリアは苦笑いしながら見守っていた。
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