01/02の日記

19:50
スノードロップ
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「ランカちゃん。貴女が希望の歌姫なら、あたしは絶望の中で歌ってみせる……」

それは、シェリルが己に課した誓い。
V型感染した体は他人の体の様に重怠く、慢性した熱がいつもシェリルを苦しめる。
死と背中合わせの歌声は嘘偽りなく真を捕らえて、人々の心を捕らえて癒やした。
確かな歌唱力に歌に対する気持ちが確実に変化した今のシェリルは、フロンティアの市民の希望になっている事を本人は自覚していない。

アンコールを熱唱したシェリルは笑顔でファンに再開の誓いを立て、袖に引き上げる。
スタッフの出迎えにも気丈に笑顔で労いの言葉を与えて、楽屋のドアを閉めた。
ドアを背にズルズルと崩れ落ち発熱の荒い息を吐く。
悔しいが、一歩も動けない。これほどまでに自由が利かない己の体を持て余して。
いつも脳裏に浮かぶのは…愛しい男の顔。綺麗な顔を歪ませてムッスリしているそんな顔。

膝を抱えながらシェリルはふふふと笑った。

想像の中でくらい笑顔でいなさいよ!まったくアルトのくせに生意気ね。

「お前…大丈夫か?」
「アッ…アルト!何でここに?」
「何でって…昨日見に行くって言っただろう?」
「いつ?」
訝しげに瞳を眇めるシェリルにアルトは赤面しながらゴニョゴニョと答える。
「え!聞こえないわよ!ハッキリ言いなさいよ」
「だあから!ベッド…の中で……だよ」
今度はシェリルが赤面する。発熱のためではない。
「…だったら!楽屋でモニターなんて見てないで、客席から見なさいよ!あんただって暇じゃないんだしこんなチャンス滅多にないじゃない」
赤面から一転、照れ隠しに語気を荒げるシェリル。世の中じゃこんな性格をツンデレと言うらしい。アルトは最近シェリルの気質に慣れてきて、デレにするコツを掴んで来た。
「だってお前…俺が行くとぶっ倒れるじゃねえか…コンサート中にヤバいだろ…ほら」
シェリルは安心したのか、力が抜けた様に床と仲良くなってしまった。
「なっ…あんたなんか居なくても1人で大丈夫なんだから」
「強がりめ」
アルトは優しく微笑んで、シェリルを抱き上げた。

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19:44
スノードロップ
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「お前はフロンティア市民だけじゃなく…俺にとっても希望なんだ……だから…無茶はするな」
「!!」
シェリルの脳裏に緑の髪の少女のあどけない笑顔がフラッシュバックする。

あたしはなれるのかしら…貴方を奮い立たせる…そんな存在に。

シェリルはアルトの胸に顔を寄せて、静かに涙を流した。


やがて鮮やかに微笑んだ。
「帰りましょう」
「ああ」
「あたし達の家に」
「ああ」





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