薄*桜*鬼


□鬼の受難
1ページ/1ページ



その日、風間は浪士達との会合の予定になるまで暇を潰そうと京の町を一人歩いていた。

いつも連れ歩いている天霧は、今日は調べものの為に別行動をしていた。
屋敷に居ても暇だから、と外へと出て来たはいいが、都合良く暇が潰せる筈もなく、ただのんびりと目的もなく京の町を一人練り歩いていた。

暫く町中を歩いているもやはり暇潰しになるものは見つからず、面倒そうにため息吐き、小腹が空いたのも相まって甘味処を探し歩く風間の視界に見覚えのある姿が映った。

「あれは…」

風間の視界に映ったのは新選組副長、土方歳三だった。

町中で斬り合いをする訳にもいかず、千鶴が居ない状態で新選組の相手をする理由もなく、良い暇潰しを見つけたとはいえ、風間は諦めて甘味処探しを再開した。

しかし相手は違うらしく、風間を見つけた土方は相手の気持ちなど露ほども知らず、風間の元へと近付いてきた。

「…よぉ、風間。鬼の頭領様がこんな所で何してんだ?」

土方はニヤリと口端を上げて微かに笑みを浮かべて風間の近くへと立つと、片手で風間の腰を引き寄せた。

「!?―貴様っ、何を!?」

焦りを露わにする風間とは対照的に、土方は余裕の笑みを浮かべてもう片方の手で風間の顎を持ち上げた。

「…綺麗な顔してるな。鬼だからか?」

顎を持ち上げて腰を引き寄せられた状態で固まっていた風間も漸く正気を取り戻し、怒りに眉寄せて土方を睨み付けた。

「ふざけた事を!…俺をからかう暇があるのならば、浪士共を取り締まってきたらどうだ?」

言葉とともに顎にある相手の手を払いのけ、忌々しげに腰に回された腕を引き剥がすと、風間は警戒を解かずに土方から離れた。

土方は警戒する風間の姿に気を悪くするでもなく、口元に笑みを貼り付けたまま風間を上から下までじっくりと見つめた。
「今日は非番なんだよ。…やっぱり綺麗だな。そこらの女よりよっぽど良い」

素直に答えながらも薄気味悪く呟く土方にある種の恐怖を感じ、数歩距離を空けた。

自分と距離をとる相手に僅か苦笑い零すと土方は空けられた分、距離を縮めた。

「なぁ…」

「黙れ。口を開くな…そして、俺の前から消えろ」

土方の言葉を聞きたくないとばかりに言い切ると、風間は赤い双眸を不愉快げに細めて土方を睨み付けた。

警戒を解かず、不機嫌さを露わにする風間の様子に諦めたようにため息を吐くと、土方は詰めた数歩分距離を空けて風間を見つめた。

「また、会いに来る。…それまでに他の奴に捕まんなよ?」

最後に意味深な言葉を残して踵を返した土方の様子に、風間は暫く呆けたようにその場に立ち竦んだ。

暫くして我に返ると、団子を食べる気も失せた為に家路へとついたのだが、彼の受難は終わっていなかった…。






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ