♂x♂

□親子愛
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"ねぇ、お父さん!
今日は何して遊ぶ?"

"どこいくの?"

"どうしてそんな顔するの?
どっか痛いの?
お父さん、泣かないで…"


「くそ…!はあ…」


頭が痛い。少しだが吐き気もある。届きそうで届かない影の形は、やっぱり思い出せそうで思い出せない。

一人用の静かなポットの中に荒く繰り返されるため息だけが、響いては消える

沈黙に耐え切れず思い切り壁を殴り付けてみても、それはまたすぐにやってきた。


「…」


早くこの空間から抜け出してしまいたい。地球とやらに行けば弟が居ると聞いている。


どんな顔をするか
この俺を拒否するだろうか
恐怖に怯えるだろうか


人種と言う見えない鎖に繋がれているともつゆ知らず、遥か遠い平和な星で幸せに暮らして居るのだろう。


駄目だ。駄目だ。
仲間はいつか消えてしまう。己の手で握り潰してしまう。


素直に着いて来るとは思えなかった。身に覚えの無い奴が兄弟だと言い張った所で信じる馬鹿はそう居ないだろう。

親父、俺って…こんな事の為に生まれてきたのかよ

奴隷の様に扱われ、しまいには兄弟までを、この汚い世界に引きずりこもうとしてるんだ。


このままカカロットを連れて逃げてしまおうか。

…駄目だ。
親父の顔に泥を塗る様な事は出来ない。あくまで、無情に。生きる。

悟られた方が負け。
それだけだ


感情を押し殺して、服従して、文句の一つも言わず、殺せと言われれば殺し、首を落とせと言われれば仲間の首でも飛ばした。

俺を慕い信じてくれた部下を消せと言われれば涙の一つも流さず消してみせた。

全く散々な人生だった。

挙げ句の果てには弟とその仲間に殺されて。ださすぎる。

言われた通りに、弱音も吐かず頑張って来た結果が、地獄とは。

神様もあんまりだ


「死んでも楽な人生は歩ませないって事なのか?」


ま、確かに行いが良かったとは言えないか。と呟いて意味もなく立ち尽くす。

どうせ、別に行く所もここには帰る場所もないんだ。

どれ位そこに立っていたか、後ろから男の声が聞こえた


「よう」

「気安く話しかけるな。今、俺は機嫌が良くないんだ」

「ラディッツ。」

「誰…」


聞いた様な声だった。
そういえば、


「それが久しぶりに会う親に言う言葉か?」


親…?
そうだ、ここは地獄だから、居てもおかしくない


「親、父?」

「久しぶりだな。
お前もやっと死んだか」


振り返ってみると、そこにはあの影が有った。何度も何度も思い描いた、あの、影だ。

そうか、こんな形だった


「地獄はどうだ?なかなか良い所だろ?俺は結構気に入ってんだ」

「親父…俺は、弟まで、」

「これで、良かったんだ。お前はよくやったぜ」


ニッと歯を見せて笑う男。まるで、昔に戻ったような、そんな錯覚に陥ってしまいそうだ。

記憶の影よりは、明るかった


「何であんな所に置いてったんだ。一人で、ずっと…」

「悪かったな。親父らしい事も出来ないままだったし」

「まだ、小さかったから」

「まぁ、それが人生だ」

「許さねぇ」

「許せ。
ま、次生まれ変わる時は、三人仲良く生きれる様に閻魔の野郎に頼んでやるから、そう泣くなや。」


ポンポンと頭を撫でられて、堪えていた涙が、一気に零れた

懐かしいこの感じ。

ああ。もちろん次はきっと、幸せに生きてみたいもんだ。


このまま地獄で過ごすのも悪くないけど、兄弟喧嘩が平和の証になる日が来るなら、それも捨てがたい。

まあ、
今は今を楽しむとするか


「泣いてねぇっつの…」

「あっそ」


-END-

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