Novel

□射手座の日
1ページ/2ページ

「作戦参謀、これを公表されたくなかったら、僕の奴隷になって奉仕していただけませんか?」
奴隷という言葉と古泉幕僚総長の持っているものに背筋が凍る。
幕僚総長が持っているのは、あれを映したビデオカメラのテープだ。
あれさえ、なければ…
幕僚総長は俺を射ぬくように見つめる。
「どうかしましたか、作戦参謀?もしかして、公表されたいのですか?」
俺は唇を噛んだ。
選択肢はどちらかしかない。
奴隷になるか、なるのを拒むか。どちらも、苦難が待っている。
なれば、それ相応の「奉仕」というものがある訳で、拒めば、このビデオテープが軍内に晒され、周りの信用を失ってしまう。
どうすればいい?
俺は窮地に立たされていた。
俺が何故、こんな状況に陥っているのかというと、それは、ついぞ昨日の事である。
俺は谷口と国木田で次の連合軍との戦のミーティングをしていた。
いや、正直言おう。
実際はただの無駄話をしていた。
「いいよな、キョンは」
谷口が俺の肩をポンポンと叩く。
何が羨ましいんだ?
「キョンは鈍感だなあ、だって、キョンは僕らと同じ士官学校の同期なのに、作戦参謀に昇進?そりゃあないよ」
と横から国木田がまるで貧乏人が貴族を羨ましがっているような口調でいう。

あのな、お前ら勘違いしているぞ。大体、昇進したとはいえ、書類が増えて片付けるのが大変なんだぞ。お前らの方がよっぽど羨ましいぜ。
「いいよなあ、エリート。そういうことを言えるからなあ」
国木田は、恨めしそうに俺を見るし、谷口は残っていたシェイクをチュゴゴと一気に飲むと立ち上がった。「キョン、一生のお願いだ!俺を昇進させてくれ!頼む」
それに続いて国木田も立ち上がって、
「僕もお願いだから、友達でしょ?」
俺は呆気にとられ、何も言えなくなったね。
谷口、国木田、すまないが俺はそんな権限持ち合わせてないぞ。
そんな他愛ないことを話していたときだった。
「作戦参謀。」
突然、後ろから声を掛けられた。
誰だろうとびくっとして、後ろを振り返ってみると、古泉幕僚総長が薄ら笑いを浮かべて立っていた。
俺と国木田、谷口は慌て立ち上がり敬礼する。
幕僚総長は、初対面からみれば元モデルと思わせる風貌、体格をしており、妙ににやけている。
しかも、俺と同じ歳のクセして、幕僚総長の座に座るエリートであり、またそのルックスのせいか、軍内には幕僚総長ファンクラブなんつー、サークルがある。
いわば、このお偉い方は絶大の人気を誇るのだ。
俺は興味ないがな。
ところで、一体幕僚総長は何のようだろうか?
「幕僚総長、俺になにか用がおありでいらっしゃるのですか?」
「ええ。ちょっと、執務室に来ていただけませんか?今度の連合軍との戦についてお話したいので。」
「了解しました。」
俺はあとでなと国木田、谷口に小声でいうと、執務室まで行った。
「どうぞ、おかけになって下さい。」
俺はソファーに腰掛けると幕僚総長もソファーに腰掛け足を組んだ。
「では、連合軍が侵攻すると思われるルートを説明します。」
そういって、説明しはじめた。
説明を聞き終わると、幕僚総長は女子共ならすぐに卒倒するような笑顔を浮かべた。
俺は気のせいだろうか、その笑顔に何かしら裏があるような気がした。
幕僚総長は微笑を浮かべて、
「作戦参謀、20年代物のワインが手に入ったのですが、お飲みになられませんか?」
とワインセラーから、20年代物だという、ワインを取り出す。
「しかし、今は職務中です。ワインなんかを飲んだら…」
俺はやんわりと断ろうとしたが、いいですよ、僕がいいといってますからと押し切られ、俺はワインを口にせざるをえなかった。
「どうですか?お味は」
20年代物のせいか、コクがあって、物凄く美味い。
俺はそういった趣旨のことを伝えると
「喜んでくれて良かったです。」
と幕僚総長は微笑を浮かべた。
断らなくて良かったななんて、下世話なことを思ったときだった。
急に体の力が抜ける。
持っていたワイングラスが床に叩きつけられて割れた。
俺は急いで申し訳ありませんと謝って片付けようとしたが、実際は
「もうしわけ…」
と言ったきりソファーに倒れこんでしまった。
倒れこむ一瞬、幕僚総長が満面の笑みを浮かべるのが見えたような気がした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ